兵庫県西宮市、その北部に残る美しい里山~船坂。都会から至近でありながら、高原の自然に恵まれ、棚田やかやぶき古民家など、長閑な風景が広がっ ています。子どもも減り高齢化が進む地域であり問題を抱えながらも、昔ながらの風習や行事が維持され、人々は協力しあって暮らしています。
船坂を訪れた都会の人は、心のオアシスを見出します。まさに現代人が「人」としての感性を呼び覚ます場にふさわしいのです。ここにアートという要 素を持ち込めば・・・人と人のつながりが希薄になった現代において、ここでの取り組みがこれからの時代の新しい関係性の芽となるのではないか。人・自然・ アート、これらがゆったりとした船坂時間に乗り、密接に絡み合って大きなうねりとなったとき、私たちはそこに豊かな実りを見出すことでしょう。
今回は国内外で活躍する15名の現代美術家が、棚田エリアと湯山古道エリアを中心に屋内外問わず様々な表現手法の作品を展示します。実りの秋そし て美しい紅葉を背景に、アーティストがこの地に触発され滞在制作した作品群を、どうぞゆっくりとご覧ください。
2007年~2008年、ドイツでの在外研修中に、「ドクメンタ」(カッセル)・「ミュンスター彫刻プロジェクト」(ミュンスター)そしてイタリ アでの「ベネツィアビエンナーレ」(ベネツィア)の開催が重なるという好機となりました。私は各地に長期滞在し、膨大な作品群が展開される広大な会場を嬉 々として歩き回りました。いずれも世界を代表する現代美術の祭典です。町まるごと、アートの祭で大賑わい!これだけの規模になると賛否両論いろいろあるの でしょうが、住民も行政も作家もディレクターもボランティアも観客も、諧和して盛り上がっている様子に、アートがもたらす力を今一度信じてみたいと思いま した。
そんな時ふと頭に浮かんだのが、「船坂」だったのです。西宮の北部に位置し、私の実家も程近い集落です。都会からもバスで30分ほど、トンネルを 抜けると忽然と眼前に広がる棚田・古民家・古道・城山などの光景。この箱庭のような小さく美しい集落にアートがあれば・・・
日本でも「越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟)や「中之条ビエンナーレ」(群馬)など、大小様々な取り組みが各地で広がっています。それらの どこにもない、船坂らしい芸術祭を構築できないかと、帰国早々はやる気持ちを抑えつつ地域に呼びかけたのです。
市内でも希少な木造校舎である船坂小学校の廃校が決まるなど不安要素が重なる中、船坂を盛り上げていこうという動きが活発化しつつありました。地 域の中核となる方々と何度も協議を重ね、まず2009年は「プレ展」と位置づけ、船坂がアートを取り込むことの意義を考えるところから始めようということ になりました。各方面に向けてアートと社会の関係性を問い、今後の方向を探っていきます。様々な表現手法の現代美術家15名を迎え、既存の行事と連関さ せ、交流をはかります。
実行委員長は、老人クラブ会長の坂田芳郎さんです。実行委員には地域の方々がずらりと名を連ねています。つまり、行政主導でもなくアーティスト主 導でもなく、あくまでも地域住民が決起した芸術祭なのです。これは、全国でも数少ない例かと思います。
主催:船坂里山芸術祭実行委員会、共催:船坂自治会・船坂子ども会・船坂農地農業を考える会となっています。この動きに賛同し応援・協賛して下さ る機関・企業・個人の数も日を追うごとに増え、兵庫県や西宮市の助成も決定し、ようやく開催の運びとなりました。
地域にとって何もかもが初めての経験で、試行錯誤の連続です。それでも滞在制作を行うアーティストたちを暖かく受け入れ、学生ボランティアも加 わって、地域のそこここに未来につながる何某かが根付きつつあります。その象徴が、作品なのです。
2010年の本展では、国際公募も行う大規模なものにしたいという案もあります。国際音楽祭・演劇祭・等々・・・さらに年間通して船坂で文化的な 企みを・・・・こんな風に、様々な意見が出ています。とても熱い船坂の人々、この小さな集落が世界に向けて発信する日が来るのも、そう遠くはないと確信し ています。
今回の「プロローグ」は、これに関わる人、もちろんアーティストも含めて全員が手弁当で創り上げてきたひとつの作品と言えます。至らぬ点もあるか と思いますが、どうぞ船坂を一度訪ねていただき、その魅力を、作品を通して感じていただけたら幸いです。

